M.2 NVMeで起動する四角いハードウェア

 

4年前になりますが、ネットワーク性能とストレージ性能を向上させた小型サーバについて、本ブログでエントリーさせていただきました。

この時は、起動ストレージを従来のHDDからSSDに変更し、10Gigabit Ethernetを活用して、データ共有に強い構成にしました。

サーバ向けのハードウェアには、高いグラフィックス性能やサウンドインターフェースはありませんし、他のインターフェースも余計なものは付いていません。その代わり、ネットワークやストレージの基本性能が求められます。高性能を追求すると、どんどん大型になり、安定性や保守性が高いレベルで求められ、運用管理が難しくなります。これから紹介する新製品では、ラックの無い事務所にも設置できるレベルで高性能を追求していくのが目的です。

今回リニューアルしたPOWERSTEP Cube Serverは、起動ストレージにM.2 NVMe SSDを使えるようになりました。従来はSATA SSDが6Gb/sの帯域をフルに使っても約600MB/s未満の速度しか出せなかったのに対し、PCI Express 3.0 の4レーン分の帯域を使えるOCuLinkポートを活用することにより、理論値で最大約3900MB/sまで出るストレージを組み込めるようになりました。

本エントリーでは新しくなったストレージの性能を中心に、ベンチマークを行った結果をご報告します。今回実験環境に使ったものは以下の通りです。

POWERSTEP Cube Server (2020年新モデル)
OS:Ubuntu 18.04 LTS
CPU:Intel Xeon D-2123IT(2.2GHz 4コア 8スレッド 8MBキャッシュ)
メモリ: 64GB DDR4-2133MHz
ストレージ:256GB M.2 NVMe SSD + 500GB SATA HDD

なお、ここで紹介するPOWERSTEP Cube Server は以下のリンクから購入することができます。
https://www.amulet.co.jp/products/custompc/ps-cube-server.html

ストレージは確かに速い。

まずストレージとして使ったのは、Intel社のM.2 SSD 760pシリーズの256GBモデルです。スペック表では、順次読み出し(最大) 3,210MB/s、順次書き込み(最大)1315MB/sとあります。お値段はお手頃ですが、耐久性評価(書き込み上限数)が144TBWと少なめなのが気にかかります。

TBWとは、 Tera Byte Written の略で、データの書き込み量とストレージの寿命に関する指標です。144TBWとは、通算で144テラバイトの書き込みがあると、寿命になる可能性が高いですよ、という意味です。実際には、使い方やソフトウェア、設置環境、ストレージの空き容量によって変わります。人間の場合でも、平均寿命80歳だからといって、自分が80歳まで生きられることは誰にも保証されていません。なお、毎日100GBデータを書き込み続けますと、約4年(3.94年)で144テラバイトに達します。

Intel SSD 760p M.2 PCIEx4 256GBモデル SSDPEKKW256G8XT

データの更新が頻繁にあるようなユーザには、データセンター向けのOptane SSD DC P4801Xシリーズという選択肢もあります。容量が200GBで順次読み出し(最大) 2,200MB/s、順次書き込み(最大)2,000MB/sです。耐久性評価 (書き込み上限数)が21.9PBWと、先ほどの約152倍です。なお、同じ耐久性評価でも、コンシューマ用SSDとサーバ用SSDでは評価基準が異なりますので、同じ数字だけで単純に比較はできないという話もあります。いずれにしろ、21.9PBということは、毎日100GB書き込みを続けても600年は大丈夫という計算になります。ストレージを組み込むマザーボードの方が先に寿命になってしまいますね。

Intel SSD DC P4801X M.2 PCIEx4 200GBモデル SSDPEL1K200GA01

さて、気になるストレージのベンチマーク結果は以下の通りです。OS標準のツールで計測しました。

 

Ubuntu上でも平均が2.8GB/s(=2,800MB/s)で、画面キャプチャでは2,860MBのところまで達しています。OSの様々なボトルネックを考えても妥当な数値だと思います。

古いパソコンのHDDをSSDに替えただけで、急に性能が上がったように感じたことはありませんでしょうか。ストレージとネットワークを強化すれば、アプリケーションのレスポンスが早くなり仕事の効率が上がることは、クライアントPCでもサーバでも同じです。

CPUはそれなりに速い。

次に参考までに、CPUの性能を測ってみました。いくつか検証したのですが、ここではフィボナッチ数列のベンチマークと、クリプトハッシュのベンチマーク結果をご紹介します。このCPUのベンチマークソフトウェアも、Ubuntuに標準で付属しているもので、なぜこういった指標が組み込まれているいるかまでは私には分かりませんが、無い知恵を絞って推測してみます。

さて、ベンチマークソフトを立ち上げると、すでにアプリケーションに保存してある過去のCPUとの比較を自動的にしてくれるのですが、ここで着目するものを Core i7 920 2.67GHzとしましょう。このCPUは、2008年11月にリリースされ、最初のCore i7として発表されたデスクトップPC用のCPUです。
ここでは、フィボナッチ数列とクリプトハッシュの計算を取り上げます。

1.フィボナッチ数列

フィボナッチ数列は、「前の2つの数を加えると次の数になる」という数列です(0, 1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34…..)。一見簡単そうですが奥が深いもので、数が増えていくに従って計算量が膨大になります。「データの並べ替え」と並んで、アルゴリズムの良し悪しで計算量が大きく変わる例として、プログラミングの教科書によく出てきます。このベンチマークでは、どのようなアルゴリズムで計算しているのかわかりませんが、足し算、掛け算の力が試されるテストと思われます。

フィボナッチ数列のベンチマークは以下の通りです。

Core i7 920 2.67GHz(ソフトウェア内に格納されていたもの):2.79秒
本機のCPU(Xeon D-2133IT 2.2GHz 実測値):0.63秒
これらの数値は小さいほど良い値(かかった時間)なので、
Core i7 920 2.67GHz:本機 = 1:4.428 (= 1: 2.79/0.63)
フィボナッチ数列の計算に関しては、本機は約4.4倍の速度で処理する力があると言えます(とはいえ10年以上前のCPUとの比較なので、順当な進化というべきでしょう)。

2.クリプトハッシュ

クリプトハッシュは暗号学的ハッシュとも呼ばれ、データを暗号化する時に用いられる演算です。Webページを見るときに使うTLS/SSL、リモートワークでお世話になるVPNのプロトコルの一つのIPSecなどでも用いられます。高い演算処理能力が要求されますので、CPUパワーを試す一つの材料になっていると思われます。

クリプトハッシュのベンチマーク結果は以下の通りです。

Core i7 920 2.67GHz(ソフトウェア内に格納):390.24 MiB/s
本機のCPU(Xeon D-2133IT 2.2GHz 実測値):664.77 MiB/s
こちらは大きいほど良い値(単位時間あたりの計算量)なので、
Core i7 920 2.67GHz: 本機 = 1:1.703(= 1: 664.77/390.24)
クリプトハッシュの計算に関しては、本機は約1.7倍の速度で処理する能力があると言えます。

2つのベンチマーク結果を総合してみると、確かに本機の方が性能が高いのですが、技術の進歩からすると当然の結果であるとも言えますね。

高性能の小型サーバが必要とされるシーンとは

かつて事務所に設置していたサーバ機の多くはクラウド上の仮想サーバに置き換わっています。にもかかわらず、小型かつ高性能なサーバが求められるような状況には次のようなものがあるでしょう。

  1. 大容量デジタルデータ編集の現場
    主にファイルサーバとして使われていることが多いのですが、映像、音楽、CGデータ等の大容量データを有し、それを1日に何度も共有・更新する必要がある現場です。核となるメンバーや管理者はサーバに頻繁にアクセスする必要があるため、10Gigabit環境を利用しているケースもあります。
  2. LAN環境での配信サービスの現場
    LAN環境でリッチコンテンツを配信する現場、例えば教育研修現場では、同時に大量のデータリクエストが集中します。そこでネットワークの輻輳が生じ、遅延が発生することがあります。ストレージとネットワークを高速化して、帯域を広くとり、ボトルネックを解消します。
  3. 複数のサーバを仮想化してまとめて1台にする場合
    複数の業務アプリケーションを稼働させる時に、利用規模が小さいまたは負荷がそれほどでもなければ、一つの仮想化サーバにまとめることができます。このとき、締め切り日近くやバッチ処理が入ると負荷が高くなることがありますが、ネットワークとストレージに余裕があれば、その時だけ必要なリソースを割り当てて大きな影響を受けずに処理することができます。

まとめ

今回はPOWERSTEP Cube Server上のUbuntuを使って、ベンチマークを取ってみました。
ネットワークやストレージの重要性がこれほど高まっている時代はありません。サーバ機器変更の際にはストレージの速度にも着目してみてはいかがでしょうか。

店頭営業が再開されましたら、店頭にてPOWERSTEP Cube Serverを展示します。この機会に実際の性能と小ささをご体感ください。